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平成18年7月17日
独立行政法人理化学研究所

心筋梗塞の発症に関わる遺伝子、PSMA6を発見

−LTA、ガレクチン2に引き続き3つ目の関連遺伝子−


本研究成果のポイント
  • PSMA6遺伝子の多型が、心筋梗塞の発症と強く関連

  • PSMA6遺伝子の発現を抑えると炎症作用が抑制される

  • 心筋梗塞の病態解明にさらに近づいた
 独立行政法人理化学研究所(野依良治理事長)は、PSMA6遺伝子が、心筋梗塞(MI:Myocardial Infarction)の発症に関連することを発見しました。理研遺伝子多型研究センター(中村祐輔センター長)心筋梗塞関連遺伝子研究チーム(田中敏博チームリーダー、尾崎浩一上級研究員)、大阪大学大学院病態情報内科学(堀正二教授)等との共同研究による成果です。
 心筋梗塞は心臓を栄養している血管(冠動脈)が、炎症その他の原因により突然閉塞する結果、心臓の組織が“え死”に陥り、心不全、不整脈、さらには突然死の危険のある疾患です。これまで、この研究チームでは心筋梗塞に関わる因子として炎症関連分子であるリンフォトキシンα(以下、LTA)およびガレクチン2を発見していました。今回の研究でも、同様に炎症に関連する分子であるプロテアソーム複合体※1の構成分子である、サブユニットαタイプ6をコードする遺伝子 (PSMA6) が心筋梗塞の発症に関わっていることを見つけました。心筋梗塞と関連の認められた一塩基多型(single nucleotide polymorphism、SNP)はPSMA6の発現量を変化させる働きがありました。また、PSMA6の働きを抑えると炎症作用が抑制される傾向にあることもつきとめました。
 本研究成果は、米国の科学雑誌『Nature Genetics』(8月号予定)に掲載されるに先立ち、オンライン版(7月16日付け)に掲載されました。


1.背景
 人間の外見、性格などは個人によって異なります。同じような生活習慣であっても、生活習慣病になってしまう人もいれば、ならない人もいます。さらには、同じ薬を服用しても、効果のある場合もあれば、逆に副作用のみが目立つ場合もあり、個人によって反応が異なります。これらヒトの多様性は環境要因と遺伝要因が複雑に影響を及ぼしあって決められていると考えられています。遺伝要因の面で注目されているのが一塩基多型(single nucleotide polymorphism、以下SNP)です。これらを網羅的に解析することで、心筋梗塞のような“比較的患者数の多い病気”(common disease)の遺伝的側面を解明することができると考えられています。
 心筋梗塞を含む心臓の病気は、日本人の死亡原因の第2位で、一般診療医療費の20%以上を占めています。危険因子を解明し、発症あるいは再発の予防につなげることが国民福祉の観点からも重要ですが、心筋梗塞に関しては、環境要因面での危険因子はある程度明らかになっている一方で、日本人の集団における遺伝的要因についてはこれまで大規模な研究は行われていませんでした。2000年度にミレニアムゲノムプロジェクトの一環として理化学研究所内に設置された遺伝子多型研究センターでは、発足当初よりSNPの網羅的解析による疾患関連遺伝子の発見を第一目標として研究を続けてきました。心筋梗塞関連遺伝子研究チームでは、LTAおよびその結合分子であるガレクチン2が心筋梗塞の発症に関わることを明らかにし、Nature Genetics(2002年12月号)およびNature(2004年5月6日号)にて誌上発表しました。今回の成果もそれに続くものです。

2.研究手法および成果
 研究チームの以前の研究から心筋梗塞と関連があることが明らかとなっていたLTAは、炎症初期のメディエーターとして種々の細胞(白血球、血管内皮、平滑筋細胞など)に対して働き、サイトカインや接着分子などの多くの炎症性分子を誘導することによって心筋梗塞に関連すると考えられています。この作用を調節する細胞内分子としてプロテアソーム分子複合体があり、今回は複合体を構成するタンパクをコードする遺伝子群の遺伝子多型に着目し、アソシエーション解析を始めました。国際ハップマッププロジェクトなどのデータベースより、これらの遺伝子群中の遺伝子多型を代表するSNPであるタグSNP※2を選択し、患者対照関連研究を行ってみると、プロテアソーム遺伝子群中のサブユニットαタイプ6(PSMA6)遺伝子が心筋梗塞の発症に関わることが明らかとなりました。心筋梗塞と関連の認められたSNPはエクソン1※3に存在しており、PSMA6の発現量を変化させる働きがありました。また、PSMA6の働きをRNA干渉(siRNA)※4により抑えると炎症作用が抑制される傾向にあることもつきとめました。

3.今後の展開
 これまでに発見した心筋梗塞感受性分子の作用を調節する分子群をコードする遺伝子群を患者対照関連研究により解析し、さらなる心筋梗塞感受性遺伝子の同定を進めていきます。


<報道担当・問い合わせ先>
   (問い合わせ先)
   独立行政法人理化学研究所
   遺伝子多型研究センター 疾患関連遺伝子研究グループ
  心筋梗塞関連遺伝子研究チーム
     チームリーダー田中 敏博
TEL:03-5449-5675 FAX:03-5449-5674
   独立行政法人理化学研究所 横浜研究所
     研究推進部  企画課溝部 鈴
   TEL:045-503-9117 FAX:045-503-9113
   (報道担当)
   独立行政法人理化学研究所 広報室 報道担当
TEL:048-467-9272 FAX:048-462-4715


<補足説明>

※1 プロテアソーム複合体
 真核生物のATP依存症プロテアーゼ複合体。19Sタンパク、20Sタンパクからなる巨大な分子(2000 KDa)で、20Sタンパクは7個のαサブユニット、10個のβサブユニットからなる。ポリユビキチン化された細胞内タンパク質を選択的に分解する酵素として炎症性分子などを制御する蛋白質の分解において中心的な役割を果たしている。

※2 タグSNP
 ある領域を代表するSNPのこと。ある領域に存在するSNP群のうち、特定のSNPを調べれば残りのSNPのパターンが推測できる場合、そのSNPをタグSNPという。詳細は(図1)参照のこと。 参考)タグ:付け札、荷札、目印

※3 エクソン1
 遺伝子は、複数のエクソンとその間にはさまれるイントロンとからなる。遺伝子のエクソン部分はRNAに転写されるが、イントロンの部分は転写されない。エクソン1とは、先頭のエクソンをさす。

※4 RNA干渉(siRNA)
二本鎖RNAにより、そのRNAと相同配列を持つ遺伝子の発現が抑制される現象をRNA干渉(RNA interference)という。哺乳動物細胞でこの現象をみる際は、21〜23塩基の二本鎖RNA (small interfering RNA: siRNA)を用いると最も効果的であると言われている。


図1 タグSNPの例
図1 タグSNPの例

 ある領域にSNPが6箇所存在し、DNAサンプルを調べた結果、4種類のパターン(㈰〜㈬)のみが存在することがわかったとする。この場合、SNP2とSNP3を調べれば、他のSNPがどういう状態にあるか、推測できる。例えば、SNP2がCでSNP3がCであった場合、パターンは㈰であることがわかるため、新たに調べなくてもSNP1はA、SNP4はT、SNP5はC、SNP6はAということがわかる。SNP2とSNP3をタグSNPという。もちろん、タグSNPの選び方はSNP2とSNP3以外にも考えられるが、効率性を考えると調べるSNPの数は最小にすべきであり、最も効率のよいタグSNPとしてこの2つを選ぶほかない。